にっぽん錆探訪 廃車体街道を行く(茨城・自宅で楽しむ編)

にっぽん錆探訪 廃車体街道を行く(茨城・自宅で楽しむ編)

 

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行き着くところ、旧車マニアの夢とはこういうことではないのか。広大な敷地に希少車を並べて朽ちるのを待つ……自宅に廃車体街道があれば、わざわざ長野に見に行く必要もない。

 

土地はあったほうがいい

おや、これはどこかで見た風景かもしれない……と、ピンと来た貴殿は相当な『オールドタイマー(以下OT表記)』誌マニア。ここは本誌91号(2006年)で取材させていただいたミゼットマニア・小川留雄さんのお庭だ。茨城の、さほどのド田舎ではない田園地帯である(私の家からクルマで1時間ほど)。そのゴルフ場が作れるほどの広大な敷地に古いクルマ、トラクター、発動機、農機具などモロモロのモノが点々と置かれている。

コレクションの多くは仕事(建築解体業)の出張先でもらってきたもの。といってもモノは使われなくなったオート三輪、トラクター、農機具。湯飲みやゴルフクラブを貰ってくるようなわけにはいかない。やはり土地と重機(ユンボやラフター)があるからこそ、どんなものでも持って帰ってこられるのだ。

「でも外に置いておくとさすがにサビるね」と小川さん。もし本誌91号をお持ちなら10ページのミゼットが連なった写真を比較していただきたい。7〜8台のミゼットが畑の畦あぜ道みちに縦列をなす光景が圧巻だったのだが、今やそのミゼットたちもドアが外れ屋根が曲がり、顔が取れ……諸行無常の響きあり、なのだ。しおらしく枯れ葉の上に座っていたキャロルと三菱ペットレオも、今は爆裂状態である。

 

トラクターのコレクションは圧巻で、〝仮面ライダー〟ことヰセキのTB23が3台もあるし、ほかではあまり見ることのないDドイツEUTZやデビッドブラウンなんかもある。この地域には裕福な大農家が多く、そこで使われていた外国製のトラクターが納屋で眠っていたのだという。

さて、ここでふと気になることが。以前に訪れたとき、真っ赤なFFファミリアの近くにあった軽便鉄道の「機関車」が見当たらない。鹿島の砂利集積場で使われていた戦前型で、確か巨大なサイドバルブ4気筒エンジンを積み、ミッションはフリクションドライブというレアモノだった。

「ああ、あれは私が留守のときに奥さんが売っちゃいました。北京オリンピックの前の年だったかな。スクラップ屋さんがやってきて持っていったみたい。そりゃ、泣きましたよ」というわけで、土地があるといろいろ楽しいことがあるのだが、油断していると悲しいこともあるのだ。

 

発動機からトラクターまで

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9年前には2、3台だったトラクターコレクションはここまで増えていた。通称・仮面ライダーと呼ばれるヰセキのTB 23が3台もある(かつてポルシェと提携して生産された空冷2 気筒エンジン車)。これが雨ざらしはもったいない。そのほかDEUTZ、デビッドブラウン(写真下、手前の白いトラクター)などレアな外国製トラクターも。ちなみにアストンマーチンのシリーズ名「DB」は同社の経営にデビッドブラウンが参画したときに付けられたもの。

 

いきなりトラクターから始めたのではない。もともとはクワや手動脱穀機などの民具から集めだし、農用発動機、耕耘機、そしてトラクターも収集するようになったのだ。この小屋はその原点ともいうべきコレクションルーム。エンジンが大好きで発電機、三輪トラック用空冷エンジンなどもある。トラクターはこれも古いDEUTZ。

 

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2006年に取材で訪ねたとき、まだ原型をとどめピンシャンしていた旧車たちの現在。畑の脇で堂々たる隊列を成していたミゼットたちはやつれ果て、土に還りかけているものもある。レア車ファン垂涎の三菱ペットレオは力尽きて倒れ込み、キャロルは爆裂状態。でも、これでいいのだ。

 

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スバルもバモスも静かに安らかに朽ちていく。なんと美しき庭園か(ずっと向こうまで小川さんのお宅)。

 

いいものあるよ

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で、自慢のモノはというと……おお、地元茨城の農家で使われていた荷馬車の荷台だ。どこかの遊園地にでもありそうなものだが、よくご覧あれ。フレーム、ステアリングシステムなどほとんどが木製の大工仕事で金具がほとんど使われていない。その価値は推して知るべし。

雑誌 オールドタイマー

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