現実か夢想かセリカLBターボを作る

現実か夢想かセリカLBターボを作る

 

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「こんなクルマがあったらなア」とクルマ好きなら誰しも一度は、何かを妄想したことがあるはずだ。

しかしその夢の多くは冗談話の肥やしとして霧散していく。

それでいいのか? オレはこんなにセリカが好きなのに。松野 健さんは一念発起、45歳でベース車を買い、7年後にパテを

盛り出した。作りたいのはセリカLBターボ。1973年全日本富士1000㎞レース、豪雨のなか圧勝した伝説のワークスマシンである。

 

クルマ遍歴の果てに

上越妙高の駅に降り立つと雪の壁を背に、イカついサングラスのオジサンがこっちを見ている。目を合わせないようにしていたら、それが松野さんであった。

事前に松野さんの愛車(セリカ1600GT)を写真で見ていたから、もうここで引き返そうかとすら思った。そのセリカはムラサキメタリックのシャコタンで、ドアには某有名暴走族グループの看板書き。もちろんワークスフェンダー、アイローネ(FRP製テールゲート)、竹槍である。

 

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「アハハ、あれはあくまでベース車ですよ。10年前にネットオークションで買ったんですが、ああいうのだから格安で」

松野さんはこれまで一度もグレたことのない新潟のマジメな旧車愛好家。いやもっと的確に言うのなら〝絶滅危惧種・昭和のクルマ好きオヤジ〟だろうか。もともと愛知でトヨタのメカニックをしていたのでトヨタ車が好きだ。

20代の頃はセリカX ダブルエックスX(GA61型)をカスタムしてエキサイティングカーショー(現在のオートサロンの前身)に展示。XXは計3台乗り継ぐ。

そのあと130ZLを3ℓ+ウエーバー45にして公道ドラッグにも入れ込んだが、やはりトヨタ車がいいとTA61型セリカ(通称ヒラメ)に。3T-GにKKK-K26タービンで走りにこだわった。その後、旧車に興味を持ち後輩からセリカLBを譲り受ける。

そして10年前に手に入れたのが、このLB1600GTなのだ。

「リヤのワークスフェンダーを剥がしたら、パテが30㎏くらい落ちて来た。

でも自分もそのあと40㎏くらいパテを盛って、ほとんどを粉にしてるんですけどね」

ただし松野さんの場合はFRPパネルの原型を作るためにパテを盛って削って粉にしているので誤解なきよう。ではいったい何を作っているんだい? と『笑点』大喜利のお題のごとく訊ねてみれば、「セリカLBターボです」と言う。

ハコスカ・Z好きは「ああ、そうですかと」と愛想笑いでスルーしてしまうかもしれないが、セリカファンは「おお!」となるはず。1973年、豪雨の富士1000㎞レースでサバンナ、Z、オープン2シーターすらも蹴散らして圧勝した伝説のワークスマシンである。

 

あの勇姿をわがものに

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1973年全日本富士1000㎞レース、川のようなストレートを猛進するセリカLBターボ(TMSCレーシング、高橋晴邦/見崎 清志)。

豪雨のなか強豪サバンナRX-3、オープン2シーターのレーシングスポーツを尻目にトップでフィニッシュする。


 

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ベースはTA27、エンジンは2T-G改DOHC1588㏄ターボ。ダルマ(TA22)のセリカターボ(久木留博之/蟹江光正)も出走している。


 

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現在、ボディの完成は6割ほどか。カタチが決まってきたのであとの進みは速いだろう。

ノーマル位置のヘッドライトがかなり奥目に。ロングノーズとわかる。


 

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10年前に購入したベース車。壊すのはもったいないとの声も。


 

 

年内完成を目指す

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幅広の3ナンバーも公認済み。またリヤサスは60セリカのセミトレにしたいのでフロアパネルごと部品取りをストックしている。エンジンは2T-Gブロックの3Tターボにしたいという。

 

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特異なフロントカウルのために作ったヒンジの試作品。レーシングジャケットのようにカウルをいったん前方に逃がしてからチルトアップさせる。

エンジンは2T、3T系を多くストック。

「昔、安いときにあちこちで集めたんです。ボロの47を買って2T-G抜いてボディは捨てちゃうみたいな。今じゃもったいない話ですよね」。

 

誰もやらないなら

「やはりセリカの究極じゃないですか。いつかは作ってみたいと若いときから思ってました。そのためにムラサキのやつを10年前に買ったんですが、作業を始めたのは3年前かな」

あるとき地元新聞の「お悔やみ欄」を見ていたら、自分と同い年の方の訃報があった。そうか、オレもいつ死んでもおかしくない歳になったんだ。できるうちにやっておかないと……。そう思ってムラサキのワークスフェンダーを剥がしにかかった。

「ただしリヤだけね。フロントフェンダー、ボンネット、アイローネはそのまま〝愛好家〟に売りました。資金作りです」

 

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まずムラサキ号に手持ちの前期ダルマのフェンダーをかぶせてFRPの原型を作り込んでいく。ノーズの形状、ブリスターフェンダーの張り出し具合、テールウイングの角度などをモータースポーツ誌から推測するが、とにかく資料が少ない(セリカLBターボの現車は存在しない)。そのため特集記事があるとその本は必ず2冊買って1冊は作業場に置いた。

以前に地元整備工場でVIPカーの製作を手伝っていたことがあり、FRPのイロハは知っていた。本誌でおなじみ、浜 素紀氏の著書『FRPボディとその成形法』をバイブルに試行錯誤しつつ、ボディパネルを成形していったのだ。

「なぜ誰もセリカLBターボをやらないのか? やり出してすぐに、その謎が解けましたね。LBターボはノーズ(先端は初期ダルマ)がノーマルより10㎝弱長いんです。しかもエンジンフードはライトカバーまで一体式。これに合わせてフェンダーやエプロンを作ればヘッドライトもバンパーステーも奥まってしまうので、さらに改造が必要になる」

それでも、やるしかない。同じく絶滅危惧種のひとりとして、私もLBターボが完成する日を楽しみにしている。


 

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セリカの神々 (ヤエスメディアムック649)

雑誌

今年誕生50周年となる初代トヨタ・セリカの魅力をまるごと1冊に凝縮。

初代セリカ(ダルマ、リフトバック)に焦点を当てて、旧車としての魅力をわかりやすい内容で紹介。

ヒストリー、レースシーンでの活躍を解説。

登場する車両はレーシングチューン、カスタムマシン、ノーマル車までさまざまなタイプ。

愛車に惚れ込んだオーナーたちもその魅力を熱く語ります。

かつてセリカに憧れた方も、これからぜひ手に入れたいという旧車ファンも必見です。


セリカの神々 (ヤエスメディアムック649)

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