シンプルがゆえに、美しい「華奢で繊細」な伝説のスーパーカー FERRARI Dino 206GT

耽溺のスーパーカー

シンプルがゆえに、美しい「華奢で繊細」な伝説のスーパーカー FERRARI Dino 206GT

 

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フェラーリ初のV6エンジンを搭載し1967年に市販されたモデルがディーノである。2ℓの206GTはその初期モデルで、69年以降は排気量を2.4ℓにアップし各部に大幅な設計変更を施した246GT/GTSへ移行、74年まで製造されたが、206GTの生産台数は150台弱と言われ非常に希少である。

 

存在そのものが伝説

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世界に数千種類とあるクルマの中には、登場までの経緯やエピソード、存在自体が伝説と云われるものがある。フェラーリの創設者エンツォ・フェラーリが、夭折した自身の愛息「アルフレッド・フェラーリ」の愛称 〝ディーノ〟 を与えたというエピソードを持つ「ディーノ」もその1台だ。

1947年設立のフェラーリは60年代にはすでに高級・高性能なスポーツカーメーカーとしての地位を築いていた。その頃フェラーリで働いていたアルフレッドは、V12エンジンではない小型軽量エンジンを模索していた。F2レースのレギュレーションも上限1・5ℓに変更されたこともあり、アルフレッドとフェラーリのエンジニアたちは1・5ℓV6エンジンの開発に着手。だがアルフレッドはエンジンの完成を見ることなくわずか24歳で亡くなってしまう。

そしてこのV6エンジン自体が「ディーノ」と呼ばれるようになった……という逸話は、フェラーリファンならずともご存じのことと思う。そしてディーノはフェラーリ開発のモデルでありながら、V6モデルを「ディーノ」として発売、フェラーリの名を冠しなかったことも伝説に深みを増す。これは、当時はV12搭載車のみをフェラーリと呼んだためだった。


 

67年に発表された206GTに搭載されたディーノエンジンは、フェラーリ開発だが製造はフィアットが担当した。この頃のF2レギュレーションは「エンジンは年間で500機の製造が必要」となっていたが、当時その機数を生産する能力がなかったフェラーリはフィアットにエンジンの生産を委託したことでそれをクリア。フィアットもディーノエンジンを搭載したモデルを製造したことによってホモロゲートを得ている。

69年には、エンジンを2・4ℓに拡大され246GTに発展。

74年までにタルガボディのGTSを含め約3900台を製造した。一方206GTは69年頃までにわずか150台の製造に留まり、ディーノの中でもさらに希少価値が高く、スポーツカーファンやエンスージアスト垂涎の的になっている。

 

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氏は長年マセラティなどのイタリア車に乗りつつバイクも趣味としていたが、夢だったディーノを手に入れる機が熟したと考えて、いよいよ206GTを探し始めた。

その約1年後、幸運にもフランスにあったこの206GTを発見、手に入れることができた。7年前のことだ。北米にデリバリーされていたモデルをイタリアのフェラーリオーナー界の重鎮がレストアしたという素性と素晴らしいコンディションを持つことも購入の決め手となった。


 

初期型ゆえの美しさ

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今回の主人公は、この伝説のクルマ・ディーノ206GTのオーナー、ofc氏である。スーパーカーブーム真っただ中に洗礼を浴びた同氏は、ディーノでもあえて206を好み、そして探した。その理由はどこにあったのだろうか。

「ディーノは子供の頃から強く憧れていました。ディーノの魅力はまさにスタイル。ボディラインが

素晴らしいです。さらに206はバンパーが薄いので華奢に見えるところが好みです。

60年代のクルマらしい繊細さがあります。ホイールもセンターロック、給油口もメッキキャップです。マフラーエンドも径が細い。しかも206は246よりも全長とリヤのオーバーハングが短いので、より小さく見えます。タイヤが細いのも魅力的です。このような206特有のディテールとスタイリングが気に入りました」

メッキが多用されている60年代と70年代のクルマは、同じように見えながらも「繊細さ」、「線の細さ」、「華奢に見える」ことに大きな差がある。ディーノは70年代中盤まで製造されたモデルだが、たしかに206GTは、246よりも繊細に見えるのだ。


 

走らせ続けることが大切

「ハンドリングは素晴らしいです。車線変更でちょっと視線を移しただけでスっとクルマが移動するイメージです。エンジンは回して、と言ってくる高回転型です」 と206GTの特徴を教えてくれたofc氏は、夢だった206GTをこれからも大事にしていくとも話した。でもガレージに保管したままにせず、こまめに無理のない範囲で動かすことがよい状態を維持する秘訣ではないかと言う。

「主に日曜午前中に大黒ふ頭などへ走りに行きます。定期的なイベントに参加して、友人とクルマ談義するのも楽しいです。あとはコッパディ東京などの大きなイベントにも出ています。定期的にエンジンに火を入れて、クルマを動かすことを大事にしています」

こうして愛情が注がれ大切に乗られている氏の206GTだが、実際に見ると頻繁に走らせている気配を感じさせないほど美しいことに驚かされる。博物館に収蔵されているかのような、ほぼ新車の輝きを持っているのである。でもだからこそこの206GTから、クルマは保有・保管するだけではなく、走らせ続けることが大切なのだと改めて教えられたような気がした。それは走るために生まれたフェラーリのスポーツカー、ディーノのためでもあるのだ。たと

え、ディーノ206GTが「伝説のクルマ」であったとしても。

 

 

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インテリアは現在の基準からすると質素だが、逆にシンプルがゆえに美しさを湛える。設えと仕上げはとても丁寧である。一見246と同じように見えるが、助手席前パッドの形状、ウッドのステアリングホイール、シフトゲート脇に設けられたフェラーリ特有の空調スイッチ・レバー類、センター部がスエード調でヘッドレストがボディ側に付くシートなど、246との違いは大きい。盤面に「Dino」と記されるヴェリア製メーター、小さなアウタードアハンドルは246GT/GTSにも受け継がれている。

 

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コーションプレートにはフェラーリの跳ね馬が踊る。206の給油口はキャップ式、エンジンフードに穿った排熱口の数も後年の246より少なく、マフラーも246の60㎜と比べて35㎜径と細い。ボディの全長やホイールベースも異なっており、インテリア以上に外観上の差異は大きい。

 

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180馬力を発生する135B型/65度V6DOHCアルミ製エンジンはミッドに横向きで搭載される。排気量は1987ccで車体幅も1.7m以下となるため、日本では珍しい「5ナンバーのフェラーリ」となる。

エンジンは1年ほど前にレストアが施され、素晴らしいコンディションを保つ。フロントボンネット内にはスペアタイヤが納められている。

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