日本の旧車アメリカ事情 「ガレージ、ついて行っていいですか?」

01--2020-03-19

日本製旧車の魅力を探るアメリカ取材の後編。彼らの「旧車ガレージ」を拝見する。案内役はスティーブさん。

 

03--2020-03-1902--2020-03-19

スティーブ・フェルドマンさん
アメリカの旧車事情に精通するスティーブ・フェルドマンさん。ユーチューブで『スティーブ的視点』を発信。
アメリカで乗る愛車ハコスカのナンバーもご自慢。

 

小さなミーティングも多い

アメリカの日本製旧車について、自身のユーチューブチャンネル『スティーブ的視点』で発信しているスティーブ・フェルドマンさん。流暢な日本語と豊富な知識、人なつっこい笑顔が魅力的だ。
カリフォルニアはロングビーチで行われた「ジャパニーズクラシクカーショー」を見てまわった。日本の旧車が600台も並んだ光景は圧巻の一語。もともと西海岸は日本から輸出されたZ、ダットサントラックやサニー、カローラなどが数多く生き延びている地域。それに加えて昨今の「25年ルール」(車齢25年を超えたクルマは、本来は適合しない右ハンドル車でも輸入登録が可能)の恩恵もあり、25年ルールをクリアしたレアな日本車が陸続とやって来ている。
今回はそんな西海岸をぶらり歩く。ジャパンニーズクラシックカーショーはすさまじい規模だが、西海岸のクラシックカーイベントといえば1950年から続く「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」が超有名(2020年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中止)。
そんなビッグイベントの合間合間に有志によるミーティングも行われている。
ロスのウッドランドヒルズにあるピアスカレッジの駐車場で、毎月1回「スーパーカーサンデー」というオールジャンルの旧車ミーティングが朝から開かれている。
10年以上続くこのミーティングを主催するのは地元ポルシェディーラー。
といってもさまざまなクルマでの参加が可能。
フェラーリ、ダットサンなどテーマ車を決めて盛り上げている。石を投げればマニアに当たる西海岸、アバンティの復刻車にこだわるお父さんやSRLをこよなく愛するお姉さんらが歓談していた。やっぱり、奥深いなあ。

 

日曜の朝に会いましょう

04--2020-03-19

ロス・ウッドランドの大学構内で毎月1回日曜の朝行われているミーティング「スーパーカーサンデー」。スチュードベーカー・アヴァンティ(?)の前でくつろぐお父さん。「マスタングベースのリメイクだけど、当時のプロジェクトメンバーのひとりが1998年に企画したんだ」。

06--2020-03-1905--2020-03-19

’31年式フォードのストリートロッドでやって来たキースさん。エアコン装備でもちろんオートマ。このコミニュニティは「最高さ」と言う。

 

07--2020-03-1908--2020-03-19

SRL311を自分でメンテしながら乗っているというリンダさん。エンジンもネットを見て自分でオーバーホールしたという。「コンピュータもキャタライザーも無いから簡単よ!」。

 

10--2020-03-1909--2020-03-19

ミーティング主催者のダスティンさん。これを始めて20年になる。「こうしたミーティングは仕事、人種、宗教を越えて互いの価値を認めあえる。素晴らしいね」。
受付ブースには無料のドーナッツが用意されていた。

 

リコさんのガレージ

スティーブさんの知人、リコさんのガレージを訪ねた。大の日本車ファンで自らレストアした86、180SXが並ぶ。RWBで仕上げたというポルシェも含め金色である。

12--2020-03-1911--2020-03-19
14--2020-03-1913--2020-03-19

’86年製のハチロクを好みにモディファイ。若い頃に触れた日本のチューニングカー雑誌からの影響が大きい。日本製パーツにも精通。

15--2020-03-1916--2020-03-19

一方、’91年式の180SXは本気のハイパーマシンに仕立てた。
エンジンはコルベット用のLS1(V8・5.7ℓ。第4世代のスモールブロック)。内装もレーシーな仕上げだ。

17--2020-03-1918--2020-03-19

お宝パーツもいろいろお持ちである。「旧車の部品は本当に高いね。みんなが欲しがるんだから仕方ないのかな」。

 

お金をかけずに楽しむ

次にスティーブさんが案内してくれたのは知り合いの趣味人、リコさんだ。
大の日本車ファンだという彼のガレージにお邪魔した。西海岸のマニアというと、みんなすごいガレージを持っているものと思うが、リコさんのそれは比較的質素。
いや、これがカリフォルニアの一般的なマニアなのだろう(もちろん、日本でこれだけ広いガレージを持つことは容易ではないのだが)。そこにはチューニングされたトヨタのAE86と日産180SX、そしてRWB仕様のポルシェが並ぶ。

86も180SXも、安いベース車を手に入れて自分でレストアした。昨今、86はアメリカでも大人気で状態が良ければ2〜3万ドルで取り引きされている。このクルマを再生したときはジャンクヤードからパーツを調達したが、ヘッドライトが300ドル、エンジンフードが500ドルもしたと笑う。400ドルでエンジンレスの丸車を手に入れて、ようやく完成させた。

’78年生まれというリコさんはスープラ、RX-7を見て育ち、『イニシャルD』、『ワイルドスピード』で日本車にハマった。

「僕より上の世代の人は、若い頃はフェラーリやポルシェに憧れた。でも医者か弁護士かプロスポーツ選手にでもならないと買えないよね。ところが日本製のスポーツカーがどんどん高性能になって、ちょっとチューニングすればスーパーカーを負かせるようになった。一気に憧れの対象が変わったよ。僕ら世代にとって86はクラシック・ホットロッドだけど、50代、60代の人もまた欲しがっている。
若返りのためにね。そんな需要があるから、値段が上がるのも当然なんだろう」

ゴールドカラーがまばゆい彼のガレージをあとにして、いよいよ案内人・スティーブさんの秘密基地に足を踏み入れる。

 

スティーブ的旧車ライフ

さてスティーブさんの秘密基地(英語でドリームガレージと言う)を拝見。フェラーリとハコスカが並ぶ。

19--2020-03-1920--2020-03-1921--2020-03-19

奥には6年前にモンタナ州で見つけ、知人のタカさんとレストアした1971年式ダットサン240Zが。ZフリークにはV8エンジンに載せ替える人もいるが、L型にこだわる。

■子供の頃の夢

全米50州のナンバープレートが飾られている。「僕はニューヨークで育った。他州からやってくる長距離トラックを見るのが好きで、いつか自分のガレージにアラスカからワイオミングまでナンバーを並べようと思ったんだ」。

22--2020-03-19ガレージに収まるのは王道とも言えるS30Zとハコスカである。ハコスカは北米に輸出されておらず、希少性から言えばZの比ではない。

「僕は’90年代に日本に住んでたんです。コレは2台目で、7年前に名古屋から持ってきました。部品? 初めは困りましたよ。日本から買うと高いしね。だから地元カリフォルニアの部品屋さんにいろいろ聞いて、流用できるものは流用しています」

ブレーキローターを交換しようとしたら、米国では売っていない。そこで部品屋さんに聞いてまわり、ローター径、ハブ径、キャリパーの大きさが近いモノを探し当てた。ローターはトヨタMR-2用。もちろん加工は必要だが最小限で済んだ。4ピストンのキャリパーはハイラックスサーフ、ランクル用だ。

西海岸流の旧車ライフは、いい意味で〝ケチケチ〟である。智恵を絞って安くクルマを維持する。今、そんな彼らが日本の旧車に興味津々というのも頷ける話だ。たとえ日本専用車であっても、彼らはなんとか部品を見つけて直してしまう。
その苦労も楽しいし、希少な日本車を維持するのが誇りなのだ。新しめのフェラーリを所有するスティーブさんだが、「もしフェラーリを売ることはあっても、ハコスカは売らないでしょう。もう手に入らないからねえ」。彼の地で日本車はちゃんと可愛がられている。

 

ハコスカ流用術

23--2020-03-1925--2020-03-1924--2020-03-19

  • 7年前に名古屋から持ち込んだスカイライン2000GT。リベット打ちやサビは経年劣化風のラッピングだ。
  • L型エンジンは日本でチューニングしているが、L型だったらアメリカでも部品入手に困らない。
  • しかし他のハコスカパーツは入手困難かつ高価なので流用部品を探し出した。クラッチマスターは240Z用を使っている。

26--2020-03-19 27--2020-03-19 28--2020-03-19 29--2020-03-19

トランクのウェザーストリップは’65年頃のインパラ用を加工した。
フロントディスクローターはトヨタMR-2用を加工。4ピストンのキャリパーはハイラックスサーフ用。
メッキリムはプラスティディップ(ゴム塗装)とメタリック塗料でヤレた金属の風合いを出している。
家グルマのフォード・ラプターから外したノーマルマフラー。「フリマに出せば300ドルくらいになるんだ」。本来ならゴミになるパーツを売って旧車の資金にする。これが西海岸の常識とのことである。

カテゴリ一覧へ戻る