ビンテージカーは夢見るオトナのクルマ遊び
こんなクルマで旅したい。
ゆっくり流れる時間を楽しむビンテージカーの選び方
アウトドアの楽しみ方は人それぞれ。
ちょっと古いクルマと道具で、のんびり楽しむのもいいんじゃない?
でも、メンテナンスは? コストは? ビンテージカーとのつき合い方をプロフェッショナルに聞いてきた。
夢と感動を運んで半世紀
3列シートのミニバンや1ボックス車にベッドや家具、シンク(流し台)を架装し、ふだん使いとキャンプや車中泊を両立できるライトキャンパーが流行っているが、ヨーロッパでは半世紀以上も前から自動車メーカーお墨付きのカタログモデルとして販売されていた。
それがVWタイプⅡウエストファリア。馬車の製造をルーツとし、のちにVWやメルセデス・ベンツなどのボディ架装を手がける老舗のコーチビルダー、ドイツ・ウエストファリア社の名を冠している。
商用バンのタイプⅡをベースに、ウエストファリアが「キャンパー仕様」にするために施したのは、開放感を高めるポップアップルーフと家具、ベッドの組み付け。
現代のライトキャンパーに通じる架装メニューを、すでに50年以上前に確立していたことに驚かされる。
ビンテージカーは夢見るオトナのクルマ遊び
ベースのタイプⅡは1950年デビュー。
67年までの初代「アーリーバス」はフロント2枚窓が特徴。アーリーから二代目「レイトバス」へのフルモデルチェンジは68年。
1973年式までは「アーリーレイト」と呼ばれ、フロントウインカーが下部にあるのが後期型との識別ポイントだ。
後にエンジンの排気量アップやATモデルが追加され、79年まで生産された。
エンジンやドライブトレーンを車両後方に集中させることでキャビンやラゲッジスペースが広くなり、駆動方式は強力なトラクションが得られるRR(リヤエンジン・リヤドライブ)を採用する。
愛らしい丸目2灯フェイスや曲面基調の「癒やし系」フォルムは老若男女に受けがよく、タイプⅡを模したカスタムカーも存在するが、やはり「ホンモノ」が放つオーラや雰囲気を誌面で表現したい。
そこで協力を仰いだのが、マニアックな欧州車を扱う「ガッティーナ」の酒井悦郎さん。同店の「箱入り娘」として嫁ぎ先を探している、1969年式ウエストファリアを撮影に供していただいた。
現代でも通用するギミックが盛りだくさん
レイトはフロントウインドーが1枚モノになり、パノラマビューを堪能できる。
エアコンがないので三角窓を開けて換気後ろ向き1人がけの2列目と3人がけの3列目で形成するダイネット。
ポップアップルーフを開けると開放感が高まる。
スライドドア脇のワードローブ、3列目下の収納など、限られた空間を有効活用。
半世紀を経た家具は独特の風合いがあるエンジン上にある荷室スペース。
ここにマットを敷き、3列目をフラットにすると長さ1900×幅1200㎜のベッドが完成。
フォルクスワーゲン・タイプⅡ ウエストファリア
ビートル(タイプⅠ)から派生したトランスポーターのタイプⅡ。
カスタムベースや移動販売車としてのニーズも高く、中古車相場は高値をキープ。
なかでもポップアップルーフを架装したウエストファリアは希少だビートルのパーツが流用でき、メンテの不安は少ない。
撮影車は1500㏄の4速MTだが、高速巡航も楽にこなせる。
「このウエストファリアはかつてウチで販売したクルマなんです」と〝彼女〞の素性を明かす酒井さん。
十数年前にアメリカからコンディション良好な状態で輸入され、2度のオーナーチェンジを経て酒井さんのもとに戻ってきた。
「調子はいかがですか?」と聞く間もなく、短いクランキングのあと、「バタバタバタ」という独特のサウンドを奏でながら空冷フラット4エンジンが一発で目覚めた。
前オーナーがマメに整備していたので機関系は絶好調。というのも、ヘッドまわりのオーバーホールを施したビートルの1500㏄エンジン(本来は1600㏄)に換装されているのだ。「消耗パーツが入手しやすく、メカもシンプルなので維持しやすいと思います」と語る酒井さんだが、あくまで「ビンテージカーのなかでは」の話。現代のクルマのようにメンテナンスフリーでは済まない。
「ウエストファリアが似合うロケーション」を求めて、ガッティーナからほど近い湘南のビーチサイドに連れ立った。視界良好のフロントウインドー越しに箱根の山々を望む澄んだ青空の下、ウエストファリアの真骨頂であるポップアップルーフを開けると、担架風の折りたたみ簡易ベッドが現れた。
本来は8ナンバーのキャンピングカーだったが、ほとんど使わなかったシンクと冷蔵庫を外すことで居住空間が広がるので、3ナンバーのワゴン登録に変更している。
ルーフを上げたときの車内高は2m以上。後ろ向きの2列目とベッドを兼ねた3列目が向かい合わせになり、壁際のテーブルを展開すると立派なダイネットが完成。
テーブルに置いた年代物のスヴェアストーブの温もりと柔らかな炎が車内を包み込む。キャブレター仕様のビンテージカーには手軽なカセットガスよりも、プレヒート(予熱)が必要で、着火にコツの要るガソリンストーブが似合う。
手間をかけた分だけ愛着が増すのはクルマもキャンプ道具も同じ。
効きの甘い4輪ドラムブレーキでノンパワステ、シフトフィールが曖昧な4速MTなど、クセのある相棒を「意のままに」操れるようになったときの感動はひとしおだ。
湘南のビンテージカー専門店
ガッティーナ
店名の由来はイタリア語の「かわいいメスの子猫ちゃん」。
子猫が路地裏をちょこちょこ走りまわるようなイメージの、オシャレで小粋な欧州車のおもしろさを多くの人に味わってほしいという、酒井さんの想いが込められている。
ルノーやフィアットといったイタ車系以外にも、初代シティや昭和59年式ミラなど通好みの車種がそろう。
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