オールドダットサンの奇跡  ダットサンと叔父の背中

ダットサン15型ロードスター(1936年式)

 

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原体験。それはきっと、幼いころ脳裏に焼き付いた夢のような経験の名残なのだろう。心の奥底にあるそれを確かめるように、人はまた夢の名残を求める。叔父から譲り受けた戦前のダットサンに、趣味人が求めたものは果たして……。

 

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1936年式ダットサン15型。これはスポーツグレードのロードスターというモデルだ。現オーナーの岡崎さんが譲り受け、約1年かけてレストアを施した。全長3060×全幅1210×全高1390㎜という車体寸法は、現代の目から見ると非常にコンパクトに映る。車両重量は630㎏。


 

 

作業場に入り浸る少年時代

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もっぱらの遊び場は、叔父さんが使っていた趣味の作業場だった。放課後や休日になると、自宅に隣接していた作業場を訪れ、クルマや重機をいじっている叔父さんの作業を興味津々でのぞき込む。……そんな少年時代のことを、岡崎 弘さんはつい最近のように思い出す。

「そのときの光景が自分の原点になったのかなぁと思いますね」

岡崎さんは叔父である岡崎安雄さんから譲り受けた1936年式ダットサン15型 ロードスターをリビングから眺め、安雄さんが執筆した自伝的小説『足守川のほとり』に視線を落とす。

物心ついたときから隣家に住んでいたという安雄さんは、母子家庭に育った岡崎さんにとって、ただの親戚以上の存在だったのだろう。「服が汚れるから」と、安雄さんと弘さん以外の家人は近づかなかった作業場で、ふたりは気ままな時間をゆっくりと過ごす。鉄と油と好奇心が充満するその場所は、ふたりにとって格好の「遊び場」であった。

その時間が岡崎さんにとって原体験と呼べるものであったろうことは想像に難くない。弘少年は安雄さんの背中を追いかけるように、いつしか作業場で整備のまねごとをするようになった。そうなってしまえば、あとの展開は想像どおり。あっという間に筋金入りの機械いじり好き少年が誕生したのである。

それは少年から青年へと成長しても、なんら変わることはなかった。岡崎さんは21歳で自身初の愛車を所有したが、もちろんのことながらただのクルマではない。事故を起こしてボロボロになったベレット1600GTを2台、各々1万円で購入し、それぞれ使える部品をかき集め1台の実動車を組み上げてしまった。

筋金入りの機械いじり好きは、その後の愛車遍歴でも遺憾なく発揮されていく。

 

結婚を機に購入し、15年所有したジェミニは、ミッションを降ろしてクラッチ交換を行うなど、メンテナンスのほとんどを自身で行った。

ウィンドサーフィンやスキーなどのアウトドアにハマって、少しばかりクルマ趣味から離れたことはあったものの、岡崎さんの根底に鋳込まれた機械いじり好きの精神は不変のままだった。

そんなある日のこと。甥っ子をずっと見守り続けてきた安雄さんが、突如あるクルマを岡崎さんに譲ると言いだした。

それが、このダットサン15型だったのである。


 

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ペダルは右がブレーキで中央がアクセル。

クラッチは左側で変わらない。何も知らずに乗ろうとすると、大変なことになりそうだ。


 

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シートも張り替え、内張にも手を加えている。非常に高級感のある仕上がりだ。


 

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バルクヘッド左側に集中的に配置されている電装系の制御機器。このあたりは現代の製品と差し替えている。配線はコルゲートチューブを新規に被せている。


 

 

いつの間にかそこにいた「叔父が購入したのは’55年前後らしいのですが、私が実車を初めて見たのはそれから数年後、私が中学生になってからのことでした。いつものように作業場へ行くと、なにやら見慣れないクルマが鎮座していたんです」

当時、ほかにダットサンのセダンを所有していた安雄さんが、こっそり購入して隠し持っていたのだという。しかし、さすがに隠しきれないと思ったのか、それともほとぼりが冷める時期を見計らっていたのかは定かではないが、突如として隠していた貨車コンテナから引っぱり出してきたのだ。

ともあれ情報解禁以降、このダットサンは岡崎家の一員として迎え入れられ、さまざまなイベントに参加することになる。

’68に行われた日産ディーラー主催の岡山県一周ラリーに参加したかと思えば、同年秋に行われる山陽モーターショーへ出展するのにお色直しも行った。

その後しばらくは大事に保管されていたが、’89年の瀬戸大橋完成パレードを走るために再び公道へ舞い戻り、’92年には日産座間工場で行われたクラシックイベントにも参加した。

 

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搭載されるエンジンはダットサン14型と同じく722㏄の直列4気筒で、最高出力は16馬力を発揮した。ほうぼうから部品を集め、自身の手でオーバーホールを施している。ちなみに燃費は「3 ㎞/ℓくらいかなぁ」だそうである。


 

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メーターが整然と並んだインテリアも美しく再生されている。ステアリングは市販のステアリング用レザーを手縫いで被せている。


 

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インパネは左からライト、キーシリンダー、チョーク、ディマー、ハザード、ルームランプ、バキューム、アポロの操作スイッチ。その上に水温、油圧、燃料、速度、電流の各メーターが備わる。


 

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ラジエターも当時物をそのまま使用するが、水漏れが発生していた。そこでクイックメンダーで処理してみたところピタリと止まったという。以来そのままだが、今のところ再発の兆しはない。


 

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ステアリングは遊びがあまりに大きかったため、調整機構を自作。ステアリング側のウォームギヤと噛み合うギヤを調整して、遊びがなくなるよう調整が可能。


 

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給油口から見える管は左が空気抜きで、右は蒸発した燃料をキャニスターに導く役割をしている。これを取り付けてから、ガソリン臭がほとんどしなくなった。


 

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幌はおなじみの染めQが大活躍。張り替えたのではないかと思うほどに光沢が出ている。


 

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灯火類はすべてLEDに変更して省エネルギー化を図っている。よもやアポロまでLED化するとは……!

 

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傑作なのがこのブレーキランプ。違和感なく収まっているが、じつはこのケース、100均で購入してきたネコ用のご飯皿だというではないか。「あまりにもぴったりだったので、自分でもビックリしてしまいました」。

 

 

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