アマチュアが25年かけて完成させたFairladyZ432 1970年式

四半世紀を渡る夢

アマチュアが25年かけて完成させたFairladyZ432 1970年式

 

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作戦完遂者に教えを請う

自動車レストアを趣味として楽しんでいる愛好家は、我々が思っている以上に多いのかもしれない。また、「いつか自分もやってみたい」と憧れる方もいることだろう。

アマチュアは自分のために楽しみながらクルマを直せばいい。納期も儲けも問われない。米粒に文字を書くような緻密な作業も許される。廃車同然のクルマをバラバラにし、部品を磨き、ボディを板金して組み上げる。1分の1のプラモデルを作っているようで楽しいものだ。

ただし、困難も待ち受ける。まずは場所の確保。ガレージは雨風をしのげる大きさでは足りない。クルマのまわりで人が作業できるくらいのスペースが欲しい。

お次は道具。基本工具、ガレージジャッキ、ウマは序の口。エアコンプレッサー、板金ハンマーと当て盤、半自動溶接機も必需品である。そして、これらの道具をうまく使いこなしていく技量も修得しなければならない。

ここまでのハードルを飛び越えて来られた方は、読者の中にどれだけいるだろうか。ご家族の了承は得ましたか? よろしい、ではレストアをお楽しみください。……嬉々としてスタートしたレストアライフ。ところがどうだ、現実には挫折者、脱走者が続出。まるで某スパルタ式寄宿学校のごとしである。ネットオークションでもレストア途上の旧車が売りに出されているのをよく見かける。

かく言う本誌のレストア連載企画でも、完成まで漕ぎ着けた例は少ない。鉄板より先に心が折れたり、鉄板より先に根性が歪んだりして投げ出してしまうのだ・・。

 

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しかし、成功例だってあるはずだ。少なくとも、年末ジャンボ宝くじの当選者よりは多いだろう。そこでこの特集では、趣味人地獄を見事にクリアして生還した方々に、〝レストア根性〟の鍛え方を教えていただきたいと思う。


 

上久保茂紀さん(49歳)

Z432のレストアを’95年、22歳のときに開始。板金塗装、エンジンオーバーホール、内装修理、シート張り替えなどすべてをこなし、2020年に完成させた’70年式フェアレディZ432(PS30)。板金塗装、エンジン分解整備、足まわりオーバーホール、シート張り替え、内装張り替えなどすべての作業を25年かけてじっくりと行った。

 

 

漫画のような運命の出会い

上久保さんの仕事は一般企業の営業職。

整備や板金が生業ではない。もともとクルマが好きで、免許を取ると中古のセリカ、三菱GTOを乗り継いだ。そのうちコミックスの『湾岸ミッドナイト』(楠みちはる著)にハマり、フェアレディZに憧れるようになった。

そこでやや不人気ゆえに安価だった130Zを手に入れ、自分なりにチューニング。マンハッタンカラーから好みの塗色に塗り直し、L型エンジンを3ℓにスープアップした。クルマいじりの楽しさがわかると、本格的なガレージが欲しくなる。実家前の通路をコンクリート舗装するついでに、ガレージも自作。

基礎、コンクリ打ちから中古2柱リフトの設置まで業者の手を借りずに建てた。

現場を取り仕切ったのはお父さんの英三さん。元バスの運転手だがとても器用な方で、建築仕事や電気工事もこなしてしまう。上久保さんが器用なのは英三さんからの「遺伝」かもしれない。

そして運命の出会いが訪れる。

’94年のとある昼下がりだった。就職して間もない頃、実家の前で130Zをイジっていると、家に配達に来た宅配便のオッチャンに声をかけられた。何かと思い顔を上げると、「これ、フェアレディZやろ。こんなんが近くの山にほうってあったわ。見に行ったらええよ」と言う。

そうか、この近くに130Zが捨ててあるのか。ちょうどガレージも完成しそうだし、もう1台130Zがあってもいいだろう。

オッチャンから現地への道順を教えてもらい、探検に行ってみた。実家からクルマで30分ほど走り山を登ると、現れたのは古びた自動車整備工場。店の脇の草むらに、何台か廃車が並ぶ。その1台が、Zだった。それも130Zではなく、Z432だったのである。

ずっと野ざらしだったらしく、車体は苔むしている。空気が抜けたタイヤ。何かを訴えかけるような、曇ったヘッドライト。これは見過ごすわけにはいかないと、勇気を振り絞って整備工場の社長に掛け合った。すると意外にも返事はOK。

価格は中古の軽自動車ほどだった。

「当時は今ほど旧車が高くないですが、ビシっとした432なら500万円はしていた。それに比べれば破格とはいえ、就職したばかりでおカネもなくて。知り合いから借りて工面したんです」

これまでレストアの経験がなかったが、それでもやってみようと思った。たまたま読んだオールドタイマーという雑誌(’94年2月号)に家族兄弟でZのレストアに勤しむ渡辺さん一家の話があった。

「衝撃的でした。だって渡辺さんのご両親も一緒になってZの塗装を剥がしているんですから」

そしていつか自分も、あんなことをやってみたいと思うようになったという。

その直後にZ432と出会ったのだから、ホントに話ができ過ぎている。

 

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レストア開始時に純正部品を買っていたことがレストアに道を拓いた。

ダッシュボードは新品在庫の最後の10個のうちのひとつ。15万円ほどしたが、じつは値引きしてもらい購入。当時、こんなに部品が高騰するとは誰も予想しなかった。


 

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ヒューズボックスの上は本来、8トラデッキが収まるスペースだが水温、油温、油圧計を追加。「古いクルマなので正確なコンディションを知りたいんです」(上久保さん談)。


 

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コンソールまわりも再生。内装材はリプロの新品を使っている。初期型S30Zの魅力のひとつ、センターコンソールに備わるチョークレバー(左)とアクセルレバー(右)ももちろん生かしている。


 

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シートの上皮はリプロ製を使って張り替えた。本誌連載記事「職人に学ぶ内装リフレッシュ術」を参考にウレタンなどを追加して、しっかりとした座り心地に仕上げている。


 

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天井、室内のライナー、絨毯類ななどはリプロの新品で張り替えている。やはり内装がキレイだとレストアの完成度が高まる。先の追加メーター以外、室内はオリジナルに忠実なレストアがなされているのがわかる。


 

 

純正部品を買い集めた

レストアを開始して心がけたのは、買える純正部品はムリをしてでも買っておくこと。

25年前はまだカルロス・ゴーン氏が日産の舵取りをしておらず、旧車の純正部品がそこそこ供給されていた。買うことができたのはダッシュボード、ドア内張、エンブレム、ハーネス、ブレーキパイプ、燃料パイプ、燃料レギュレーター、マスターシリンダー、ウォシャータンク、バンパーのコーナーゴムなど。

ダッシュボードは在庫の残りが10個だったが、数万円値引きしてくれたという(当時の定価は15万円ほど)。S20型エンジンのパーツも純正ピストン、クランクメタル、シリンダーライナー、ウォーターポンプなどの在庫があった。

今の時代にこれだけのパーツを集めるのには、時間もお金もケタ違いにかかってしまうはず。

25年前、お小遣いを注ぎ込んで部品をストックしたことが、Z432復活への道を拓いていったようだ。

「でもレストアを始めて数年でパーツが日産から出なくなりました。手持ちの部品が一気に貴重になったので、失敗できないという緊張感もありましたね」

432の再生作業は地道に進めた。まずクルマを全バラにしていく。「外せるネジは全部外した」と豪語するだけあって、徹底的に分解した。

部品のひとつひとつを洗浄し、塗装を剥ぎ、サビを落とす。初めは剥離剤を使っていたが、そのうちオールドタイマーという雑誌でサンドブラストなるモノが・・・・

 

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Z432はハコスカGT-Rと同じS20型エンジンを搭載。432は4バルブ、3キャブレター、ツインカムの意味。水冷直列6気筒DOHC4バルブ1989 ㏄ は160PS/7000rpmを発生する。上久保さんはオリジナルどおりに純正部品で再生。25年前、まだS20の部品供給があり、ピストン、シリンダーライナー、メタル、ウォーターポンプも買うことができた。


 

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この暗さがおわかりいただけるだろうか。ヘッドライトも純正のシールドビームを使う。普通なら実用的な明るさのH4バルブタイプに交換してしまうところを、「当時の純正ヘッドライトがどんな感じか知りたかった」という。


 

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サイドシル、テールゲート開口部、そしてこのフューエルリッドまわりの腐食が激しく、大きく切り継ぎ板金をしている。こうして見ても、その痕跡はわからない。なお、バンパーのコーナーゴムを付けていないのは、Z432Rを気取っているわけではなく、新品ストックしたコーナーゴムが穴なしタイプだったため「穴をあけるのがもったいなかった」。これが付いていないのはレース用の432RとS30Zの低グレードのみ。


 

1台のクルマを納得いくまで手を入れて再生する。

これこそアマチュアレストアラーの特権だが、さすがに25年もかけたという方は少ないだろう。

だが、オーナーがZ432のために積み上げた時間は伊達ではない。

 

 

発掘から復活まで

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’95年、実家近くのクルマ屋さんの脇で野ざらしのZ432を見つける。持ち主と交渉し「軽の中古くらいの金額で」譲り受けた。


 

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さっそく完成間もない自作ガレージに持ち込み、分解していく。エンジンを抜き、足まわりを外した。


 

続きは・・オールドタイマーNO.183号にて

 

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【特別付録】

趣味人クリアファイル


 

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オールドタイマーNO.183号

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