ドラッグレースで遊ぶセリカ
ドラッグレースで遊ぶ すべては400mのために
スタート時、バーンナウトする1975年式セリカLB1600GT(TA27)とドライバーの今井茂一さん。2014年の仙台ハイランドにて。
0−400mを駆け抜ける白いセリカ。一見、普通のLB。だがドラッグレースを走るためオーナーが手塩にかけたマシンだった。
大好きなセリカで走りたい
スタートから400mの距離をアクセル全開で走り、タイムが速い方が勝ちという明快さ。
それでいてエンジンパワーのみならず、ドライビングのテクニックでも勝敗が左右する。
オールドタイマーの姉妹誌だったカーボーイ誌主催によるゼロヨン大会が開催され、活況を呈したのはもう四半世紀も昔のことだろうか。
かつての賑わいすら懐かしく感じるほどに時は過ぎ去った。
東日本でドラッグレースが盛んだった仙台ハイランドが2014年に閉鎖になるなど、イベント自体も減っている。
とはいえ、一度虜となったらそう簡単にはやめられない魅力がドラッグレースにはあるようだ。
ここで紹介するセリカLB1600GTオーナー、今井茂一さんもまた、ドラッグレースの魅力に取り憑かれたひとりだ。
セリカでドラッグを走るようになったのは、兄の影響があった。
もともとセリカが好きだったのもあるが、兄が先にLBを手に入れて走るようになると、ならば自分もと最初は手頃なTE27トレノでドラッグレースをはじめる。
だが、どうしても好きだったセリカLBへの気持ちは忘れられず乗り替えたのだ。
モスグリーンと白、2台のセリカLBが兄弟のトレードマークなのである。
軽さが勝負を決める
コンマ1秒を競う世界だから、ボディは軽いほうが有利だ。
もちろん、同じ2T-G型エンジンを搭載するならTE27のほうが軽い。
対してLBはノーマルだと1t近い重量がある。これを可能な限り軽くするため、今井さんはセリカを手に入れてすぐ、ボディのFRP化に踏み切った。ルーフやリヤフェンダー以外、ボルトオンで組めるパネルをすべて、FRP製に置き替えたのだ。
これによりTE27クラスの軽量ボディとなったセリカLB。
FRP化するにあたり、苦労したのは意外にも灯火類。
冷静に考えれば当たり前だが、ボディにアースが通っていないので、ウインカーを点灯させるのにも手こずったという。
ホームコースにしていた仙台ハイランドはなくなってしまったが、「最近はツインリンクもてぎで300mですけど、たまにやってるんでチャンスがあれば走ります。ちょっと短いんですけど、この300mって距離が絶妙なんですよ」。
たった100mと思うなかれ、これが違うだけで、ゼロヨンとは展開が変わる。
80スープラと走ったときのこと。相手はターボだから300mから伸びる。
だから普通に400mだったら絶対にスープラが速い。一方セリカは軽さを生かしスタートで先行できる。
スープラは後から追い上げてきて、ちょうど300mあたりで接戦になる。向こうはターボで600とか700馬力はある。
こっちはNAで馬力は全然低い。それが競り合いになるのも300mの面白さなのだ。
搭載する2T-G型エンジンは以前乗っていたTE27時代に製作し、セリカへ積み替えた。
11111-88222ヘッドのエンジンをベースに3Tクランクと亀有ピストンで1960㏄にスープアップしている。
タコ足も亀有のステンレス製。
チューニングはトヨタツインカムに強いウィザードに依頼している。
すべてはドラッグレースのため、ルーフとリヤフェンダー以外、ボルト留めしてあるボディパネルはすべてFRP製に交換、軽量化を施したセリカLB。その結果、車両重量はTE27レビン/トレノに匹敵する。
キャブレターはウエーバー55DCOEを使用。レース仕様のため燃料タンクへのリターンパイプを新設している。奥に見えるアルミオイルパンはウィザードオリジナルの6ℓタイプ。油膜切れは即エンジンブローに繋がるのでシビアだ。
ブレーキマスターシリンダーに繋がるラインロックユニット。電磁バルブにより油圧ラインを開閉し、これによりフロントブレーキをロック、バーンナウトを可能にする。
徹底した軽量化
ウインドーはフロント以外のすべてをアクリル製に変更し軽量化。リヤはノーマルのガラスウインドーにアクリル板を乗せ、熱をかけて曲面にした労作。
リヤゲートももちろんFRPで軽量化。パネルはすべてリスタード製を採用している。
フロントストラットはテイン製に交換。スピンドル部分は純正を使い、シェルケースから上を加工するタイプ。
ブレーキキャリパーは純正のままだ。リヤタイヤは取材時にはアドバンのSタイヤA048、185/60R14を履いていた。
このまま使うこともあるが、レースでは様々なサイズ、銘柄を試す。
フロントグリル周辺のパネルは純正だと鉄製だが、リスタードではこのような部分までFRP製がラインアップされている。
半年で作ったドラッグセリカ
念願かなって手に入れたセリカは買ってすぐバラバラに。平日の仕事が終わってからの時間や、土日は朝から晩まで、毎日のようにウィザードの工場に通い、半年かけて仕上げた。
ボディの塗装も今井さん自身で吹いている。苦労したのはFRPパネルの組み付け。
純正のようには行かず、プレスラインを合わせるのに何度も取り付けをやり直した。
LBはフォードマスタングマッハ1に似たアメリカンスタイルだけに、ドラッグレースの舞台によく似合う。
ドラッグ仲間のダルマセリカとともに。
顔つきこそ共通したイメージだが、ダルマとLBでは全体の雰囲気がかなり異なる。
壊れてもその場で直す
ナンバー付きでエントリーするので、会場までの行き帰りは自走が基本。だから壊さないように走らせるのも重要となる。
エンジン回転数はスタート時が6500回転で、レース中は8000から8500回転まで。「9000まで回るんですけど、バルブが飛んじゃうことがあるので8500までと意識しています」。
エンジン以外もできるだけ壊さないように心がけているが、だいたい仲間がスペアパーツを持っている。だから何かが壊れても、彼らに聞けば部品があったりする。エンジン以外だったらそれで現地で直して走って帰れるのだ。「以前なんかパドックでミッションまで降ろして修理した仲間もいましたね」。
公道ではありえないスピードで駆ける。
だから普通では考えられないことが起こる。ドラッグならではといえるのがドライブシャフト破損だ。特にスタート時はフロントブレーキをラインロックし、リヤタイヤを空転させバーンナウトさせるため、「ひどいとドライブシャフトがソフトクリームみたいにねじれるんですよ。
そこまで行かなくても、普通にスプラインが曲がってホーシングから抜けなくなるんです。
だからドライブシャフトは消耗品で定期交換ですね」。そして念のため、スプラインにはWPC加工を施す。
そうすることで強度アップになり、レース中のトラブル予防になる。細かな積み重ねが順位を左右するのだ。
エンジンの仕上がりや車体の作り込み、サスペンションセッティングのみならず、部品の消耗もタイムに影響する。
「点火プラグはレースごとに劣化するので使い捨てです。中にはハイテンションコードまで毎回交換する人もいます。クラッチも半年で交換。それどころかレース毎という人もいますね」
一見しただけではストリートチューンのようにも見えるセリカだが、その中身は街乗りとも、サーキット仕様とも趣が異なる。ストイックなまでのマシンの作り込み、レースごとのセッティング。それら苦労を上まわるだけの楽しさがドラッグレースにはある。
セリカの神々 (ヤエスメディアムック649)
今年誕生50周年となる初代トヨタ・セリカの魅力をまるごと1冊に凝縮。
初代セリカ(ダルマ、リフトバック)に焦点を当てて、旧車としての魅力をわかりやすい内容で紹介。
ヒストリー、レースシーンでの活躍を解説。
登場する車両はレーシングチューン、カスタムマシン、ノーマル車までさまざまなタイプ。
愛車に惚れ込んだオーナーたちもその魅力を熱く語ります。
かつてセリカに憧れた方も、これからぜひ手に入れたいという旧車ファンも必見です。
オススメ記事