ほんとうに 欲しかったのはCELICA 4コイチで作り上げたフルチョイス・セリカ

ほんとうに 欲しかったのはCELICA 4コイチで作り上げたフルチョイス・セリカ

 

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グラマラスなスタイルで人気を博したトヨタ・セリカだが、人気は2T-Gを搭載する上級グレードに集中した。

もし下位グレードに採用された「フルチョイスシステム」に2T-Gという選択肢があったのなら……。

もしかすると、こんなクルマだったのかもしれない。

 

5年かけてレストア

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’73年式セリカST。長きにわたり放置され土に還る寸前になっていたが、堀さんの5年間に及ぶレストアにより見事復活した。ボディ塗装はソリッドカラーだが、上塗りでクリアを吹く際、ボディカラーをクリアに混ぜて塗装する「濁り塗装」にて行っている。テカテカではない、ほどよいツヤ加減が魅力。


 

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エンジンは現在3基目で、もともと搭載されていた2T-Bブロックに2T-Gヘッドを組み合わせ、3Tクランク+ボアアップで2ℓ化。ラジエターをコア増しし、OSスーパーシングルクラッチを組み合わせてハイパワー化に対応している。

燃料ポンプはニスモ製に交換しているので燃圧が高め。そこでまつおかの燃圧レギュレターを装着して調整している。

キャブはウエーバーのφ45㎜を装着。ソレックスに比べてシビアな面もあるが、吸気音はこちらが好み。

ファンネルはソレックスのφ40㎜用を加工流用。

 

3基目の2T-Gエンジン

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エンジンは当初、部品取り車に搭載されていたノーマルの2T-Gだった。しかしモアパワーを求めて2ℓ化したところ、高速道路でエンジンブローしてしまった。仕方なくノーマルの2T-Gへ戻したが今度はオイル消費の症状が酷くなったため、知り合いのクルマ屋さんにあった2ℓの2T-Gを譲り受け搭載した。しかし、どういうわけかこのエンジンも、バルブが落ちるというトラブルで見事にブロー。

ついにエンジンがなくなったので、STに積まれていた2Tブロックに2T-Gヘッドを搭載したエンジンを製作。

これが現在のエンジンである。

それまでは自身で組み上げていたがあまりに時間がなかったため、塗装などは自身で行い、知り合いに製作を依頼した。

こちらがオイル穴などの追加工を施した2Tブロック。


 

自分だけの仕様を作る

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1970年にデビューした初代セリカの特筆すべき点は、日本初のスペシャリティカーであったことと、フォード・マスタングが採用して人気を博したフルチョイスシステムを導入したことだろう。

好みのエンジン、ミッション、内装などを自由に選べる斬新なシステムは、日本初のスペシャリティカーという触れ込みと併せ、販売の目玉となった。

しかしフタを開けてみれば、人気の中心にあったのはフルチョイス対象外である2T-G搭載のGT/GTV系。

トヨタの目論見が外れたとも言えるのだが、当時は排ガス規制が年々厳しくなっていた時期。

高出力を発揮するハイパワーエンジン搭載車への憧れが、根強く残っていた可能性が大いにあるだろう。

現代へと時代が移り変わっても、もてはやされるのはトップグレードモデルがほとんどという状態は変わらない。

その人気を反映してか下位グレードモデルはあまり残っておらず、どの程度のユーザーがフルチョイスを選択したのか、曖昧になっている点も多い。

「1600GTは高嶺の花だったはずなので、STを始めとするフルチョイスのセリカがけっこう走っていたと思うんですけど……。どこへ行ったんですかね」

そう首をかしげるのは、今となっては珍しい’73年式セリカSTに乗る堀 喜典さん。一見するとよいコンディションに保たれた極上車に見えるのだが、じつはこのクルマ、4台のセリカから部品を集めて再生した、九死に一生を得たクルマなのである。


 

内装はGT仕様に変更

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インパネを始めとした内装はGT系のもので統一。ダッシュボードに割れが発生しているため、汎用のダッシュボードカバーをかぶせている。


 

4台で10万円!?

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堀さんのクルマ遍歴は、’64年式ホンダS600から始まる。もともとクルマ好きであったため、高校生のころから叔父さんが営んでいた自動車板金会社で働き始めた。高校卒業とほぼ同時にバブル景気が弾け、就職氷河期へ突入したことも

あり、堀さんは叔父さんの会社で板金塗装の道を進むことにしたのである。

そんなときに購入したのがS600だった。ちょくちょく手を入れながら15年ほど所有したが、結婚してマイホームを建てる際に売却を決意。費用のあまりかからない軽自動車ならなんとか維持できるだろうと、スズキ・カプチーノへと乗り替えた。

セリカと出会ったのは、そのカプチーノすらも手放して趣味のクルマがなくなったときだった。知り合いのクルマ屋さんのヤードに何年も前からセリカが数台置きっぱなしになっていて、どうしたものか考えているという話を聞いたのだ。

「もしよかったら5万円で引き取ってくれないか?」というので見に行ってみると、サビだらけのセリカが3台、なにやら寂しげに佇んでいるではないか。

さらに詳しく話を聞くと、グレードはGTVが1台、STのGT仕様が1台、STが1台で、このうち書類があるのはSTだけだという。

「ならば他の2台を部品取りにして、STだけでもどうにか復活させられないだろうか」

抹消されて書類も紛失しているクルマの再登録ほど大変なことはない。そう考えると、再生プランは自ずとSTの復活へと絞られることとなった。堀さんはセリカを譲り受けることを決意し、再生のためにレストアを開始する方向へと舵を切ったのだった。

 

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フロントセクションは、オイルクーラーと社外のフロントスポイラーが目を引くがそれ以外はノーマルのまま。

リヤまわりも基本ノーマルだが、「16005SPEED」のエンブレムは中央から右側へ移動。

レンズ類は磨いたうえでクリア塗装を行った。

 

自分でフルチョイス

とはいったものの、セリカの状態はお世辞にもよいとは言えなかった。ボディに致命的なダメージはなかったが、外板はサビでザクザク。特にひどかったのはフロントウインドーの下部分とサイドシルで、ほぼ原形を留めないほどに腐食していたという。

通常ならば解体屋さんに直行しても不思議ではない状態だったが、幸いなことに部品取り車が手元に2台、さらにダルマセリカの部品取り車1台を5万円で引き取ったため、部品取り車の状態のよい部分を厳選して使用することができた。

それは内装やエンジンも然り。つまるところ、合計四台の部品を利用した、自分だけの仕様を作ることが可能となったのである。

「GTVもあったから、当時できなかった2T-Gを搭載仕様も作れるなぁ……なんて考えていたわけです。自分だけのフルチョイスシステムですね」

堀さんはそう言って笑うが、完成までの道のりは並大抵のものではなかった。なにせ本業の鈑金塗装の合間を見計らっての作業である。本業が忙しければレストアは進まないし、出口の見えない作業はモチベーションを著しく低下させる。そのため、凹んでいたルーフを直すだけでも半年もかかってしまったという。

「そんな状態だから、本当は仕上がらないんじゃないかと思いながら作業していました」

という堀さん。しかしボディ板金が終了してサフ入れが完了すると、一気に完成までの道のりが開け、作業効率も劇的に向上したのだという。

そうして5年の歳月をかけ、ついに完成したのがこのセリカなのである。完成後2回もエンジンブローの憂き目に遭うなどトラブルが絶えなかったものの、堀さんは今の愛車に満足しているのだと笑う。5年間の歳月がクルマに愛着を持たせたか、それとも自分だけのフルチョイスシステムがピタリとはまったのか……。確たる理由は聞けず仕舞いだったが、堀さんとセリカの付き合いは長きに渡るものとなることは間違いないだろう。

そこまで考えて、ふと気づいたことがある。当時フルチョイスシステムでセリカを手に入れたオーナーたちも、堀さんと同じような満足感を得ていたのではないだろうか、と。自身と同じ仕様のセリカに会うことは難しいとまで言われたこのシステムはコストがかさみ失敗とされた半面、他車では味わえない満足感をオーナーにもたらしていたはずだからだ。

満足そうにセリカを運転する堀さんの姿に、当時フルチョイスシステムでセリカを手に入れたオーナーたちの笑顔が、重なって見えたような気がした。

 

フルチョイスシステムとは?

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初代セリカは1970年から’77年まで生産された、旧車乗りにはおなじみの車両である。エンジン3種類、ミッション3種類、シート3種類、フルチョイスシステムとは?インパネ8種類という選択肢から好みのものを選ぶ「フルチョイスシステム」はフォード・マスタングの例を参考にしているが成功したとは言えず、トヨタは初代スターレットでフルチョイスシステムとほぼ同様のフリーチョイスシステムを展開した以降、このシステムを設定することはなかった。

 

セリカの神々 (ヤエスメディアムック649)

今年誕生50周年となる初代トヨタ・セリカの魅力をまるごと1冊に凝縮。

初代セリカ(ダルマ、リフトバック)に焦点を当てて、旧車としての魅力をわかりやすい内容で紹介。

ヒストリー、レースシーンでの活躍を解説。

登場する車両はレーシングチューン、カスタムマシン、ノーマル車までさまざまなタイプ。

愛車に惚れ込んだオーナーたちもその魅力を熱く語ります。

かつてセリカに憧れた方も、これからぜひ手に入れたいという旧車ファンも必見です。

セリカの神々 (ヤエスメディアムック649)

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